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ラプラス作用素の固有値に関する形状最適化問題を計算機援用証明により解決-太鼓の音と形状の関係性に迫る-

2023年11月10日 金曜日 研究成果

「太鼓の音から太鼓の形状の何が定まるのか?」―物体が振動する時の音から物体自身の形状を推定するという逆問題(注1)はスペクトル幾何学(注2)の基礎問題として、100年以上多くの研究者を惹きつけてきました。太鼓の音(固有振動数)と太鼓の形状の関係は数学的にはラプラス作用素(注3)の固有値問題(注4)という偏微分方程式によって表現されます。ラプラス作用素の固有値と領域の形状の関係を解析するためには形状微分と呼ばれる「固有値問題の領域変数に関する微分値」の具体的な値を計算することが重要となります。20 世紀初頭から形状微分に対する理論的な解析が行われてきましたが、厳密な計算法の確立には至っていませんでした。

概要

東京女子大学数理科学科の劉雪峰教授と本学自然科学研究科大学院生の遠藤凌輝は、計算機を用いた精度保証付き数値計算法(注5)、特に固有関数の誤差評価に関する最新理論を利用し、多角形領域におけるディリクレ境界条件(注6)、非斉次ノイマン境界条件(注7)の形状微分に対する厳密計算法を確立しました。さらに、当該計算法を用いて、1950 年代にG.ポリアらによって解決された三角形領域におけるディリクレ固有値の形状最適化問題を計算機援用証明という新たな手法によって再解決し、さらに実用問題に関わる非斉次ノイマン境界条件をもつ固有値の形状最適化問題を解決することによって、数値解析手法のひとつである有限要素法(注8)の誤差定数の挙動を明らかにしました。

本研究成果のポイント

  • 過去10年に劉雪峰教授らが開発した固有値・固有関数に対する厳密数値計算の理論を用いて、これまで計算が困難だった固有値の形状微分に対する厳密計算法を確立しました。
  •  開発した形状微分の厳密計算法を用いて、一定の直径をもつ三角形領域の中でラプラス作用素のディリクレ第1固有値が最小となる形状の最適性をディリクレ・非斉次ノイマン境界件のもと検証しました。
  • 開発された計算機援用証明は既存の理論的方法とは異なり、境界条件に依存しない解析手法を採用しています。このため、従来の理論的手法では困難であった複雑な境界条件を持つ固有値に関する形状最適化問題の解決に成功しました。
【用語解説】

(注1)逆問題:ある出力結果から、その原因となる入力やパラメータを推定する問題のこと。逆問題は多くの科学技術分野で重要な役割を果たしている。
(注2)スペクトル幾何学:図形や多様体の形状をそのラプラス作用素の固有値を用いて研究する数学の分野。
(注3)ラプラス作用素:微分方程式論において非常に重要な役割を果たす2階微分作用素。
(注4)固有値問題:微分という演算に関してスケールが変わっても形状が保持される場合について、その数値(固有値)と対応する関数(固有関数)を求める問題のこと。
(注5)精度保証付き数値計算:近似値に対する誤差の厳密な上界を求める数値計算の方法。数学的な命題に対する計算機援用証明に用いられる。
(注6)ディリクレ境界条件:境界上での関数の値が0であるという条件。
(注7)非斉次ノイマン境界条件:境界上における法線方向の微分が与えられているという条件。
(注8)有限要素法:方程式が定義された領域を小領域(要素)に分割し、各小領域における方程式を比較的シンプルな関数で近似する手法のこと。

研究内容の詳細

ラプラス作用素の固有値に関する形状最適化問題を計算機援用証明により解決-太鼓の音と形状の関係性に迫る-(PDF:0.8MB)

論文情報

【掲載誌】Journal of Differential Equations
【論文タイトル】Shape optimization for the Laplacian eigenvalue over triangles and its application to interpolation error constant estimation
【著者】遠藤凌輝(新潟大学)、劉雪峰(東京女子大学)
【doi】10.1016/j.jde.2023.09.016

本件に関するお問い合わせ先

広報事務室
E-mail pr-office@adm.niigata-u.ac.jp

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